歯髄炎の原因は歯ぎしり・食いしばり?虫歯じゃないのに痛む歯の対処法
虫歯が見当たらないにもかかわらず、歯にズキズキとした痛みを感じる場合、その原因は歯ぎしりや食いしばりによって引き起こされる「歯髄炎」かもしれません。
歯髄炎は歯の内部にある神経(歯髄)が炎症を起こす状態で、放置すると神経を失うことにもなりかねません。
この記事では、歯ぎしりや食いしばりが歯髄炎を引き起こすメカニズムから、症状の段階、治療法、そして自身でできる対策までを詳しく解説します。
歯ぎしり・食いしばりが歯の神経に炎症を起こすメカニズム
歯ぎしりや食いしばりは、食事の際に食べ物を噛む力よりもはるかに強い力を歯に加えてしまいます。
この過剰で持続的な圧力が歯の根の先にかかると、根の先端にある細い血管が圧迫されて血流が滞ります。
歯の神経である歯髄は、この血管を通じて酸素や栄養の供給を受けているため、血行不良に陥ると栄養不足の状態になり、炎症反応を起こします。
これが、歯ぎしりや食いしばりが原因で起こる歯髄炎のメカニズムです。
初期の段階では軽い違和感程度でも、継続的に強い力が加わることで炎症が悪化し、やがて激しい痛みを引き起こすことがあります。
ズキズキ痛む?歯髄炎で現れる特徴的な症状
歯髄炎の症状は、炎症の進行度合いによって大きく異なります。
歯の神経がまだ回復する可能性を残している初期段階の可逆性歯髄炎と、炎症が進行し神経の回復が難しい不可逆性歯髄炎に大別されます。
初期の段階では冷たいものがしみる程度の軽い症状ですが、進行すると何もしなくても激しい痛みを感じるようになります。
自身の症状がどの段階にあるのかを把握することは、適切な治療を受ける上で重要な目安となります。
まだ間に合う?神経を残せる「可逆性歯髄炎」のサイン
可逆性歯髄炎は、歯髄の炎症が比較的軽度であり、原因を取り除くことで神経が正常な状態に回復する可能性のある段階です。
この段階での主な症状は、冷たい水や甘いものを口にした際に歯がしみるというものですが、刺激がなくなると痛みはすぐに治まります。
この症状は、一般的な知覚過敏や初期の虫歯と似ているため見過ごされがちですが、歯髄への血流障害が引き起こしているサインかもしれません。
この段階で歯科医院を受診し、食いしばりなどの原因に適切に対処すれば、歯の神経を抜かずに温存できる可能性が高まります。
歯の寿命を長く保つためにも、早期の対応が求められます。
神経の回復が難しい「不可逆性歯髄炎」のサイン
不可逆性歯髄炎は、炎症が重度に進行し、歯髄組織が自力で回復できない状態を指します。
この段階になると、特定の刺激がなくてもズキズキと脈打つような激しい痛み(自発痛)が現れるのが特徴です。
特に温かい飲み物で痛みが強くなったり、夜間に痛みが増して眠れなくなったりするケースが多く見られます。
さらに症状が進行すると、歯の神経が死んでしまう「歯髄壊死」に至り、一時的に痛みが消えることがあります。
しかし、これは治癒したわけではなく、細菌が歯の根の先で繁殖し、より深刻な問題である「根尖性歯周炎」へと移行する前兆であるため、速やかな治療が必要です。
食いしばりだけじゃない!歯髄炎を引き起こす5つの原因
歯に強い負担をかける食いしばりは歯髄炎の有力な原因の一つですが、それ以外にも様々な要因が歯髄の炎症を引き起こします。
最も一般的な原因は進行した虫歯による細菌感染ですが、歯周病や歯のひび割れ、過去の歯科治療がきっかけとなることもあります。
これらの原因は単独で発生することもあれば、複数が絡み合って症状を悪化させる場合も少なくありません。
正確な原因を特定し、適切な治療を受けるために、自己判断せずに歯科医師の診断を仰ぐことが重要です。
原因1:進行した虫歯による細菌感染
歯髄炎を引き起こす最も一般的な原因は、深く進行した虫歯です。
虫歯菌が歯の表面のエナメル質、さらにその内側の象牙質を溶かして歯髄にまで達すると、細菌が直接歯髄に感染し、強い炎症を引き起こします。
初期の虫歯では痛みを感じることは少ないですが、虫歯が深くなるにつれて、冷たいものがしみるようになり、やがて何もしなくてもズキズキと痛むようになります。
もともと虫歯がある状態で、強い食いしばりの癖があると、歯に微細な亀裂が入りやすくなり、そこから細菌の侵入を助長してしまうなど、症状の進行を早める要因にもなり得ます。
原因2:歯周病菌が歯の根から侵入
歯周病が重度にまで進行することも、歯髄炎の原因となり得ます。
歯周病によって歯と歯茎の間の溝(歯周ポケット)が深くなると、歯の根の部分が露出します。
歯の根の表面は外部からの刺激に弱く、また歯髄に通じる無数の細い管(象牙細管)が存在するため、歯周病菌がそこから歯の内部に侵入して歯髄炎を引き起こすことがあります。
これを「上行性歯髄炎」と呼びます。
特に、歯の根の先端部分から細菌が感染するケースもあります。
歯茎の腫れや出血、歯が長くなったように見えるなどの歯周病の兆候がある場合は、歯髄炎のリスクも考慮する必要があります。
原因3:歯のひび割れや破折といった外傷
転倒や事故で歯を強くぶつけたり、硬い食べ物を噛んだりした際に、歯にひびが入ったり、歯が欠けたりすることも歯髄炎の原因になります。
特に、目には見えないほどの微細なひび割れ(マイクロクラック)からでも、唾液中の細菌が歯の内部に侵入し、歯髄に感染して炎症を起こすケースは少なくありません。
また、突発的な外傷だけでなく、日常的な強い噛み締めや食いしばりの癖は、歯に継続的なダメージを蓄積させ、マイクロクラックを発生させる大きな要因となります。
明確な外傷の記憶がなくても、無意識の噛み締めによって歯がダメージを受けている可能性も考えられます。
原因4:治療後の詰め物・被せ物による刺激
虫歯治療の際に歯を削る行為そのものや、金属の詰め物・被せ物による熱の伝わりやすさなどが、歯髄への刺激となる場合があります。
特に、歯髄に近い深さまで達した虫歯の治療では、歯髄が過敏な状態になり、治療後に一時的な痛みを伴うことがあります。
通常、この痛みは時間とともに落ち着きますが、刺激の度合いが大きかったり、歯髄の回復力が弱っていたりすると、炎症が治まらずに歯髄炎に移行することがあります。
また、治療で装着した詰め物や被せ物の高さが微妙に合っていないと、噛み合わせた際にその歯だけが強く当たり、持続的な負担がかかることで、食いしばりと同様のメカニズムで歯髄炎を誘発するケースも見られます。
原因5:重度の知覚過敏からの移行
知覚過敏は、歯の表面を覆うエナメル質が摩耗したり、歯周病などで歯茎が下がって象牙質が露出したりすることで、外部からの刺激が歯髄に伝わりやすくなった状態です。
通常、知覚過敏による痛みは一時的ですが、歯ぎしりや強いブラッシング圧によって歯の根元がくさび状に削れてしまう「くさび状欠損」などを放置すると、象牙質の露出範囲が広がり、歯髄に絶えず刺激が加わり続けることになります。
この継続的な刺激が歯髄の許容範囲を超えると、防御反応として始まった炎症が慢性化し、やがて本格的な歯髄炎へと進行してしまうことがあります。
歯髄炎の放置は危険!歯の神経を失う前に知っておきたいこと
歯髄炎の痛みを我慢して放置すると、炎症はますます悪化し、最終的に歯髄が死んでしまう「歯髄壊死」という状態に至ります。
歯髄が壊死すると、痛みの感覚がなくなるため一時的に治ったかのように感じることがありますが、実際には細菌が歯の根の中で増殖し続けています。
これらの細菌はやがて歯の根の先端から顎の骨へと広がり、根の先に膿の袋を作る「根尖性歯周炎」を引き起こします。
この状態になると、噛んだ時の痛みや歯茎の腫れを繰り返し、周囲の骨を溶かしてしまうこともあります。
治療が困難になると、歯を残すことができず、最終的に抜歯という選択をせざるを得ない状況になる可能性が高まります。
歯髄炎の進行度で変わる!歯科医院での治療法を解説
歯髄炎の治療は、歯の神経が回復可能な状態か、すでに手遅れの状態かによって、その方法が大きく異なります。
歯科医院では、痛みの種類や強さ、レントゲン検査などの結果を総合的に判断し、歯髄の炎症の進行度を診断します。
診断結果に基づいて、神経を温存する治療か、あるいは神経を取り除く治療か、最適な方針が決定されます。
初期段階であれば歯へのダメージを最小限に抑える治療が可能ですが、進行している場合はより複雑な処置が必要となります。
初期段階で行う歯の神経を保護する治療
炎症が軽度で、歯髄がまだ生きていると判断される可逆性歯髄炎の場合、神経をできるだけ保存する治療(歯髄保存療法)が選択されます。
例えば、虫歯が原因であれば、細菌に感染した部分のみを丁寧に取り除き、歯髄を保護するための特殊な薬剤を塗布または充填してから、詰め物や被せ物で修復します。
これにより、歯髄の鎮静と回復を促します。
食いしばりや一時的な刺激が原因の場合は、マウスピースの作製や知覚過敏を抑える薬剤の塗布など、原因そのものへのアプローチを行い、歯髄への負担を軽減することで炎症が自然に治まるのを待ちます。
歯の寿命を延ばす上で、この段階での適切な処置は非常に有効です。
進行した場合に行う根管治療(神経を抜く治療)
炎症が進行し、歯髄が回復不能な状態(不可逆性歯髄炎)や、すでに神経が死んでしまった状態(歯髄壊死)の場合、歯を保存するためには根管治療が必要となります。
この治療法は、感染や炎症を起こした歯髄を専用の器具で完全に取り除き、歯の根の中(根管)を洗浄・消毒する処置です。
根管内を無菌的な状態にした後、再感染を防ぐために薬剤を隙間なく緊密に充填します。
根管治療は複数回の通院が必要となる精密な治療であり、治療後は歯がもろくなるため、多くの場合、土台を立てて被せ物(クラウン)で補強します。
この処置により、本来であれば抜歯となる歯を残すことが可能になります。
歯髄炎の再発防止に!歯ぎしり・食いしばりへの対策
歯髄炎の治療が完了しても、根本原因である歯ぎしりや食いしばりの癖が残っていると、治療した歯や他の健康な歯に再び問題が生じるリスクがあります。
歯や顎への過剰な負担は、歯髄炎だけでなく、歯の破折や顎関節症など様々なトラブルの原因となります。
そのため、治療と並行して、これらの癖をコントロールするための対策を講じることが、長期的な口腔内の健康維持に不可欠です。
歯科医院で指導を受け、自分に合った方法を実践することが推奨されます。
就寝中の歯を守るナイトガード(マウスピース)の装着
睡眠中の歯ぎしりや食いしばりは、無意識下で行われるため、自分の意志でコントロールすることは極めて困難です。
この無意識の力から歯を守るために非常に有効なのが、ナイトガードと呼ばれるマウスピースの装着です。
歯科医院で歯型を採って作製するオーダーメイドのナイトガードは、自身の噛み合わせにぴったりと適合します。
これを就寝時に装着することで、上下の歯が直接強く接触するのを防ぎ、歯や顎関節にかかる圧力を効果的に分散させます。
これにより、歯のすり減りやひび割れを防ぎ、歯髄へのダメージを軽減して歯髄炎の再発予防に役立ちます。
日中の食いしばりを意識して改善するTCHの是正
日中の活動中に、特に集中している時などに無意識に上下の歯を接触させてしまう癖を「TCH(Tooth Contacting Habit:歯列接触癖)」と呼びます。
人の口の中は、リラックスしている状態では上下の歯の間にわずかな隙間があるのが正常です。
しかし、TCHの癖があると、弱い力であっても長時間にわたって歯に負担がかかり続け、食いしばりと同様に歯や顎にダメージを与えます。
この癖を改善するには、まず自身にTCHがあることを自覚することが第一歩です。
パソコンの画面やデスク周りなどに「歯を離す」と書いたメモを貼り、それを見た時に上下の歯が接触していないか確認する習慣をつけることで、無意識の食いしばりを減らしていくことができます。
まとめ
虫歯がないにもかかわらず歯に痛みを感じる場合、歯ぎしりや食いしばりに起因する歯髄炎が疑われます。
歯髄炎は、神経が回復可能な「可逆性」の段階と、回復が困難な「不可逆性」の段階に分けられ、早期の対応が歯の神経を救うための重要な分岐点となります。
痛みを放置すると神経が壊死し、歯の根の先に膿が溜まるなどして、最終的には抜歯に至る可能性もあります。
原因は様々で、自己判断は危険を伴います。
まずは歯科医院を受診し、歯科医師や歯科衛生士による正確な診断と適切な治療を受けるべきです。
そして、根本原因となる生活習慣の改善にも取り組み、再発を予防することが口腔全体の健康維持につながります。
症例・患者さんの声

【監修】
平井鍼灸院 院長 梅田俊
鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師
鍼灸師
【所属】
2015年~ 日本自律神経研究会
日本自律神経研究会
【資格】
2011年 国家資格はり灸師、あん摩マッサージ指圧師免許取得
2016年 自律心体療法上級者施術認定者取得
2018年 クレニアルテクニック上級施術認定者取得
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