静かな夜、布団に入って眠りにつこうとした瞬間、心臓がドキドキと速く打つのを感じて不安になった経験はありませんか。
寝ようとするときの動悸は、多くの人が経験する症状の一つです。
原因の多くは精神的なストレスですが、中には注意すべき病気が隠れている可能性もあります。

この記事では、就寝時の動悸の原因や自分でできる対処法、そして医療機関を受診するべきサインについて詳しく解説します。

布団に入ると心臓がドキドキ…これって大丈夫？

日中は気にならないのに、夜、布団に入ると急に心臓の鼓動が大きく速く感じられることがあります。
周囲が静かになることで、自分の心臓の音に意識が向きやすくなるため、より一層動悸を強く感じてしまうのです。
動悸が気になって眠れない、という悪循環に陥ることも少なくありません。

多くは心配のない一時的なものですが、頻繁に起こる場合や他の症状を伴う場合は、その原因を探ることが必要になります。

寝ようとするときの動悸、主な原因はストレスかも？

日中の活動中は交感神経が優位に働き、夜のリラックス時には副交感神経が優位になるのが体の自然なリズムです。
しかし、強いストレスにさらされていると、このバランスが崩れてしまいます。
寝ようとするリラックスすべき時間帯に交感神経が活発なままだと、心臓の拍動が速くなり、動悸として感じられるのです。

ここでは、ストレスが動悸を引き起こす詳しいメカニズムを見ていきましょう。

ストレスで自律神経が乱れると動悸が起こりやすい

心臓の動きをコントロールしているのは、自分の意思とは関係なく働く自律神経です。
自律神経には、体を活動的にする交感神経と、リラックスさせる副交感神経の二つがあります。
強いストレスを受け続けるとこのバランスが崩れ、本来は副交感神経が優位になるべき夜間に交感神経が活発になってしまうことがあります。

その結果、心拍数がなかなか落ち着かず、心臓がドキドキする動悸を感じやすくなるのです。
特に、寝る前に仕事の悩みや人間関係のストレスなどを考えると、交感神経が刺激されやすくなります。

強い不安感や心配事が動悸につながることも

「また動悸が起きたらどうしよう」という不安自体が、動悸を誘発する原因になることもあります。
これは予期不安と呼ばれ、動悸を繰り返すうちに、その症状に対する恐怖心が芽生えてしまう状態です。

特にパニック障害などの不安障害がある場合、寝る前の静かな時間に突然強い不安に襲われ、激しい動悸や息苦しさを感じることがあります。
心配事が頭から離れない状態も、交感神経を刺激し続け、心臓のドキドキ感につながりやすいため注意が必要です。

ストレスだけじゃない！就寝時の動悸を引き起こす病気の可能性

就寝時の動悸はストレスが原因であることが多い一方で、治療が必要な病気が隠れているケースも存在します。
心臓自体の問題である不整脈や、睡眠中の呼吸に関連する病気、さらにはホルモンバランスの乱れなどが動悸を引き起こすことも考えられます。

もし動悸が続く、あるいは他の症状も伴うようであれば、単なるストレスと片付けずに、これらの病気の可能性も視野に入れることが重要です。

不整脈のサインとして現れる動悸

動悸の原因として、まず考えられるのが不整脈です。
不整脈とは、心臓の拍動リズムが一定でなくなる状態を指します。
脈が飛ぶように感じる「期外収縮」や、脈が速くなる「頻脈性不整脈」、逆に遅くなる「徐脈性不整脈」など種類は様々です。
寝ようとしている時に感じる動悸は、期外収縮によるものである場合が少なくありません。

ほとんどは心配のないものですが、中には心房細動など、脳梗塞のリスクを高める危険な不整脈が隠れている可能性もあるため、脈の乱れを自覚したら注意が必要です。

睡眠時無呼吸症候群が隠れているケース

睡眠中に呼吸が何度も止まる睡眠時無呼吸症候群も、動悸の原因となります。
呼吸が止まると体内の酸素濃度が低下し、それを補うために心臓は心拍数を上げて全身に血液を送ろうとします。
この心臓への負担が、夜間や早朝の動悸として現れるのです。

大きないびきをかく、日中に強い眠気があるといった症状に心当たりがある場合は、この病気を疑う必要があります。
放置すると高血圧や心不全など、より深刻な心血管系の病気につながる可能性も指摘されています。

甲状腺の病気や貧血が原因の場合も

心臓以外の体の不調が動悸を引き起こすこともあります。
例えば、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されるバセドウ病などの甲状腺機能亢進症では、全身の代謝が活発になり、常に心臓がドキドキしているように感じられます。

また、血液中のヘモグロビンが不足する貧血の状態では、体内の酸素が不足しがちになり、それを補うために心臓がたくさん働いて動悸を感じることがあります。
特に女性は月経や妊娠、更年期などでホルモンバランスが乱れやすく、貧血にもなりやすいため注意が必要です。

カフェインやアルコールの過剰摂取も影響する

コーヒーや緑茶、栄養ドリンクなどに含まれるカフェインには、交感神経を刺激して心拍数を増加させる作用があります。
特に就寝前に摂取すると、寝つきが悪くなるだけでなく、動悸を感じやすくなるため注意が必要です。

また、アルコールも一時的にはリラックス作用がありますが、分解される過程でアセトアルデヒドという物質に変わり、これが交感神経を刺激して動悸や頻脈を引き起こします。
寝酒の習慣がある人は、かえって睡眠の質を下げ、動悸の原因を作っている可能性があります。

動悸で眠れない夜に！その場でできる応急処置

突然の動悸で眠れなくなってしまった夜は、焦らず冷静に対処することが大切です。
多くの場合、パニックにならずリラックスすることで症状は自然と落ち着いていきます。

ここでは、動悸が起きたその場で試せる簡単な応急対処法をいくつか紹介します。
これらの方法を知っておくだけでも、いざという時の安心材料になり、不安の軽減につながるでしょう。
ただし、強い胸の痛みなどを伴う場合は、すぐに医療機関に連絡してください。

まずは腹式呼吸でゆっくり息を整える

動悸が始まったら、まずは意識的に呼吸を整えることから試みてください。
特に腹式呼吸は、副交感神経を優位にし、心身をリラックスさせる効果が期待できます。
まず、楽な姿勢で座るか仰向けになり、ゆっくりと鼻から息を吸い込みながらお腹を大きく膨らませます。
次に、吸う時よりも長い時間をかけて、口からゆっくりと息を吐き出しながらお腹をへこませていきます。

この一連の動作を数分間繰り返すことで、高ぶった神経が静まり、心拍も次第に落ち着いてくるはずです。

楽な姿勢で安静になりリラックスする

動悸を感じたときは、体を締め付ける衣服を緩め、自分が最も楽だと感じる姿勢で安静にすることが基本です。
ベッドに横になる、ソファに深く腰掛ける、壁に寄りかかるなど、体の力を抜ける体勢を探しましょう。
クッションや枕を使って、頭や足を少し高くすると楽に感じられることもあります。

目を閉じて、ゆったりとした音楽を聴いたり、心地よい香りのアロマを焚いたりするのも効果的です。
体を休ませることで、興奮した交感神経の働きが鎮まり、動悸の軽減が期待できます。

冷たい水を一杯飲んで気持ちを落ち着かせる

冷たい水をゆっくりと飲むことも動悸を鎮めるのに役立つ場合があります。冷たい水が喉を通過する際に、自律神経の一種である迷走神経が刺激されるためです。迷走神経には心拍数を穏やかにする働きがあるため、これを刺激することで速くなった鼓動を落ち着かせる効果が期待できます。

ただし、一気にがぶ飲みするのではなく、コップ一杯程度の量を少しずつゆっくりと飲むようにしてください。深呼吸と組み合わせることで、より気持ちを落ち着かせやすくなります。

動悸を繰り返さないために日常生活でできるセルフケア

就寝時の動悸を予防し、健やかな毎日を送るためには、日頃の生活習慣を見直すことが非常に重要です。
ストレス管理、睡眠の質の向上、バランスの取れた食事、そして適度な運動は、自律神経のバランスを整えるための基本となります。

これらのセルフケアを継続的に行うことで、動悸が起こりにくい心と体を作っていくことができます。
ここでは、今日から始められる具体的な生活改善のポイントを紹介します。

自分に合ったストレス解消法を見つける

動悸の大きな原因であるストレスと上手に付き合うためには、日頃からこまめにストレスを発散させることが不可欠です。
自分が心から楽しい、リラックスできると感じる方法を見つけましょう。
例えば、趣味に没頭する時間を作る、好きな音楽を聴く、自然の中を散歩する、友人や家族と話すといったことが挙げられます。

また、ヨガや瞑想、アロマテラピーなども、心身の緊張を和らげるのに効果的です。
ストレスを溜め込まず、その日のうちに解消する習慣をつけることが、動悸の予防につながります。

質の高い睡眠をとるための寝室環境づくり

質の良い睡眠は、乱れた自律神経のバランスを整えるために欠かせません。
快適な睡眠環境を整えることで、心身ともにリラックスし、動悸の起こりにくい状態を保てます。
まずは、寝室を暗く静かな状態に保ち、温度や湿度を快適なレベルに調整してください。

体に合ったマットレスや枕を選ぶことも重要です。
また、就寝前のスマートフォンやパソコンの使用は、ブルーライトが脳を覚醒させてしまうため控えましょう。
代わりに、リラックスできる音楽を聴いたり、軽いストレッチをしたりするのがおすすめです。

バランスの取れた食生活を心がける

日々の食事内容も、自律神経の働きに大きく影響します。
特定の栄養素に偏ったり、食事を抜いたりすると、心身の不調につながりやすくなります。
特に、ビタミンB群やカルシウム、マグネシウムは神経の働きを正常に保つために重要な栄養素なので、意識して摂取すると良いでしょう。

また、血糖値の急激な変動も自律神経を乱す原因となるため、食事は決まった時間に3食きちんと摂るのが理想的です。
カフェインや香辛料などの刺激物は、交感神経を興奮させやすいので、摂りすぎに注意してください。

日中の適度な運動で自律神経を整えよう

日中に適度な運動を取り入れることは、自律神経のバランスを整える上で非常に効果的です。
ウォーキングやジョギング、サイクリング、水泳といったリズミカルな有酸素運動は、セロトニンの分泌を促し、精神的な安定をもたらします。

また、適度な疲労感は夜の自然な眠りを誘い、睡眠の質を高める効果も期待できます。
無理のない範囲で、まずは週に数回、30分程度の運動から始めてみましょう。
継続することで、ストレスへの耐性が高まり、動悸が起こりにくい体質へと改善していくことが期待できます。

こんな症状は要注意！病院を受診すべき動悸のサイン

ほとんどの動悸は心配のないものですが、中には危険な病気のサインである可能性も否定できません。
特に、動悸以外の症状を伴う場合や、日常生活に支障をきたすほど頻繁に起こる場合は、自己判断せずに専門医に相談することが重要です。

これから挙げるような症状が見られる場合は、放置せずに速やかに医療機関を受診するようにしてください。
早期発見・早期治療が、深刻な事態を防ぐ鍵となります。

胸の痛みや息苦しさ、めまいを伴う場合

動悸とともに、胸を締め付けられるような痛みや圧迫感、息苦しさ、冷や汗、めまいといった症状が現れた場合は、特に注意が必要です。
これらの症状は、狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患や、危険な不整脈のサインである可能性があります。

命に関わることもあるため、このような症状が一つでも見られたら、ためらわずに救急車を呼ぶか、すぐに医療機関を受診してください。
特に、症状が安静にしていても治まらない場合は、緊急性が高いと考えられます。

動悸が頻繁に起こり生活に支障が出ている

胸の痛みなどの激しい症状はなくても、動悸が毎日のように起こる、一度始まると長時間続く、あるいは動悸のせいで眠れない日が続くなど、日常生活に支障が出ている場合も受診をおすすめします。
ストレスが原因だと思っていても、背景に甲状腺の病気や貧血などが隠れている可能性も考えられます。

また、「また動悸が起きるのではないか」という不安から、外出や特定の行動を避けるようになってしまうこともあります。
原因を特定し、適切な治療を受けることで、不安なく日常生活を送れるようになります。

意識が遠のくような感覚がある

動悸とともに、気が遠くなるような感覚や、実際に意識を失ってしまう（失神）症状が起きた場合は、極めて危険なサインです。
心臓から脳への血流が一時的に著しく低下している可能性があり、命に関わる重篤な不整脈（心室頻拍や心室細動など）や、心臓の構造的な問題が原因となっていることが考えられます。

このような症状を経験した場合は、症状が一度きりであったとしても、絶対に放置してはいけません。
すぐに循環器内科を受診し、精密検査を受ける必要があります。

動悸の悩みは何科に相談すればいい？

いざ病院に行こうと決めても、どの診療科を受診すればよいのか迷うかもしれません。
動悸の背景には心臓の病気だけでなく、精神的な問題やその他の内科的疾患など、様々な原因が考えられます。
まずは体の状態を客観的に調べることが重要です。

原因に応じて適切な治療法は異なり、必要であれば薬による治療も行われます。
ここでは、動悸の症状で相談すべき主な診療科について解説します。

まずは循環器内科で心臓の状態をチェック

動悸を自覚した場合、まず相談すべきは循環器内科です。
循環器内科は心臓や血管の専門家であり、問診や聴診に加えて、心電図、ホルター心電図（24時間装着する心電図）、心エコー（超音波）検査などを用いて、動悸の原因が心臓にあるかどうかを詳しく調べます。

これらの検査によって、不整脈の有無や種類、心臓の構造や機能に異常がないかを確認できます。
命に関わる危険な病気を見逃さないためにも、まずは循環器内科で器質的な問題がないことを確認しておくことが非常に重要です。

ストレスが強いと感じるなら心療内科も選択肢に

循環器内科で検査をしても特に異常が見つからず、しかし動悸が続く場合、その原因はストレスや不安など、心の問題にある可能性が高いと考えられます。
仕事や家庭で強いストレスを感じている自覚がある、気分の落ち込みや不眠など他の精神的な症状もある、という場合は心療内科や精神科への相談が有効です。

専門家によるカウンセリングや、自律神経のバランスを整える薬、抗不安薬などを用いることで、症状の改善が期待できます。
一人で抱え込まず、専門家の助けを借りることも検討してください。

まとめ

寝ようとするときの動悸は、多くの場合、ストレスによる自律神経の乱れが原因です。
生活習慣を見直し、ストレスケアを心がけることで改善が期待できます。
しかし、胸の痛みや息苦しさ、めまいなどを伴う場合や、頻度が高く生活に支障が出ている場合は、不整脈や甲状腺の病気といった他の疾患が隠れている可能性も考慮しなくてはなりません。

まずは腹式呼吸などで落ち着き、症状が続くようであれば、循環器内科を受診して心臓に問題がないかを確認することが大切です。
検査で異常がなければ、心療内科への相談も視野に入れ、原因に応じた適切な対処を行いましょう。

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