不眠症と自律神経 — コルチゾール・メラトニンなどのホルモンとの関係とは?
こんにちは。鈴木開登です。
「布団に入っても眠れない」「夜中に何度も目が覚める」「朝早く目が覚めてしまう」――不眠の悩みは誰もが一度は経験しますが、慢性化すると日常生活や仕事のパフォーマンス、精神状態に深刻な影響を与えます。本稿では不眠症の定義から具体的な症状分類、検査・治療の流れ、自律神経との関係、東洋医学(鍼灸)の視点まで詳しく解説します。
不眠症とは?
不眠症は単に眠れないことを指す言葉ではなく、医学的には入眠困難・中途覚醒・早朝覚醒・熟眠障害のいずれか(または複数)が週に一定回数以上、かつ3か月以上続き日常生活に支障をきたす状態を指します。一次不眠(器質疾患がない)と、内科的・精神科的疾患や薬剤が原因となる二次不眠に分けられます。原因は多岐にわたり、環境・生活習慣・ホルモン・心理的ストレス・慢性疾患などが複合的に関与します。
不眠症の症状(タイプ別の特徴)
不眠はタイプによって対策が異なります。主なタイプと日常での困りごとを整理します。
入眠困難(寝つけない)
布団に入ってから30分以上眠れない。ベッドでスマホを見続けてしまう/就寝前の不安で眠れない、など。中途覚醒(夜中に何度も目が覚める)
夜間に短時間ずつ目が覚め、再入眠が困難。夜中のトイレ、痛み、呼吸障害が原因になることも。早朝覚醒(予定より早く目が覚める)
目覚めが早く、その後眠れない。気分の落ち込みや日中の疲労が強い場合、うつや更年期が関係することがある。熟眠障害(眠った感じがしない)
睡眠時間は確保しているのに、疲れが取れない・日中の眠気が強い。睡眠の質(深さ)が低下している状態。
不眠は認知・記憶・注意力の低下、免疫機能の低下、体重増加・代謝異常のリスク増加とも関連します。
西洋医学から見た不眠症(原因・検査・治療)
主な原因(器質的・機能的)
身体疾患:甲状腺機能亢進/低下、疼痛性疾患、呼吸器(睡眠時無呼吸)、心疾患など
精神疾患:うつ病・不安障害・PTSDなど(不眠は主要症状)
薬剤性:一部降圧薬、ステロイド、抗うつ薬の副作用など
生活要因:不規則な睡眠スケジュール、夜勤、アルコール・カフェインの過剰摂取、運動不足
検査と鑑別
問診・睡眠日誌:入眠時間、起床時間、夜間覚醒、日中の眠気を記録。
簡易検査:血液検査(甲状腺、電解質、貧血)、尿検査。
睡眠専門検査:終夜睡眠ポリグラフ(PSG)で睡眠時無呼吸や周期性四肢運動を評価。
自律神経検査:心拍変動解析(HRV)などで交感/副交感のバランスを把握。
治療(段階的・包括的)
睡眠衛生指導(Sleep Hygiene):就寝前のルーチン、光・音環境、カフェイン摂取制限、規則正しい起床時間。
認知行動療法 for Insomnia(CBT-I):睡眠制限療法、刺激制御、認知再構成、リラクセーション法が有効で長期効果あり。
薬物療法:短期的には睡眠薬(ベンゾ系・非ベンゾ系)、長期的には慎重に使用。抗うつ薬や抗不安薬が併用されることも。
光療法・メラトニン:概日リズムのズレに対して朝の光曝露やメラトニン補充が有効な場合あり。
基礎疾患の治療:疼痛管理、睡眠時無呼吸のCPAPなど。
CBT-Iは不眠治療の第一選択として推奨されており、薬に頼らない改善を目指す場合の柱になります。
自律神経との関係(不眠が生まれる生理学的メカニズム)
不眠と自律神経は双方向に影響します。主なポイントを整理します。
交感神経の亢進(“覚醒状態”の持続)
ストレスや過度の興奮により交感神経が優位になると、心拍・血圧・体温が上昇し、入眠のスイッチが入りにくくなります。布団に入っても考えが止まらない「誤認的覚醒」が生じます。副交感神経の働き不足(回復機能の低下)
睡眠中に副交感神経が優位になり体を修復しますが、これがうまく機能しないと浅い睡眠に終始し、熟眠感が得られません。概日リズム(サーカディアンリズム)の乱れ
メラトニン分泌のタイミングやコルチゾールの朝方ピークのズレが入眠・覚醒の時間を狂わせます。夜遅いスマホや不規則な生活が原因になりやすいです。ホルモンバランスの乱れ
慢性ストレスで視床下部—下垂体—副腎(HPA)軸が過剰に働くとコルチゾール分泌が亢進し、寝つきが悪くなります。中枢性感作
慢性的な不眠は脳の痛み感受性同様に「不眠感受性」を高め、わずかな刺激で容易に覚醒してしまう悪循環を作ります。
睡眠の質を改善するにはこの自律神経の切り替え(昼間は活動、夜は回復)を取り戻すことが核心です。
東洋医学から見た不眠症(弁証と鍼灸の実践)
東洋医学では不眠を「心・肝・脾・腎」など五臓のバランスと「気血津液」の不足・滞りとして診ます。代表的な弁証(パターン)と臨床像、代表的なツボを示します。
心脾両虚(しんぴりょうきょ)
疲労感が強く、入眠困難・夢多い・食欲低下。治療は心を養い脾胃を補う。主なツボ:内関、心兪、足三里、関元。肝鬱化火(かんうつかか)
ストレスからのイライラ・目覚めやすさ・夢多く寝てもすっきりしない。疏肝理気を主眼に。主なツボ:太衝、肝兪、安眠、合谷。腎陰虚(じんいんきょ)
更年期や慢性疲労に伴う寝汗・のぼせ・早朝覚醒。滋陰補腎を行う。主なツボ:腎兪、太谿、命門、安眠。痰湿(たんしつ)・瘀血(おけつ)
頭重感・熟眠障害・だるさ。痰湿除去・活血化瘀を行う。主なツボ:陰陵泉、三陰交、血海、百会。
まとめ
不眠症は「眠れない自分」を責めてしまいがちですが、原因は身体的・精神的・生活習慣的な要因が絡み合った複雑な現象です。まずは基礎的な検査で危険因子を除外し、睡眠衛生の徹底・CBT-Iなど行動療法・生活習慣の改善を基本に、必要に応じて薬物療法や光療法、そして東洋医学的な鍼灸治療を組み合わせることで多くの場合改善が期待できます。自律神経のバランスを取り戻すことが良質な睡眠への近道です。眠れない夜が続く方は、まず睡眠日誌を付けてみてください — そして必要ならご相談ください。
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