不安神経症 × 自律神経 × 鍼灸：慢性不安の背景と東洋医学的アプローチ

こんにちは。鈴木開登です。

「理由はよくわからないのに不安が止まらない」「ちょっとしたことで胸が苦しくなる」「休んでも疲れが抜けない」――こうした不安や落ち着かなさは、日常生活や仕事・人間関係に大きな影響を及ぼします。一般に「不安神経症」と呼ばれる状態は、不安や心配が過剰に長引く病態であり、自律神経のアンバランスと深く結びついています。ここでは不安神経症の本質、症状像、西洋医学的な病態生理、自律神経との関係、東洋医学（鍼灸）的な見立てを丁寧に解説します。

不安神経症とは？

不安神経症は、理由が明確であってもなくても「過剰な不安や心配」が持続し、日常生活に支障を来す状態を指します。現代の診療では「不安障害」に相当する概念で、慢性的な漠然とした不安（将来の出来事・健康・人間関係などへの過度な心配）と、それに伴う身体症状や心理症状が特徴です。単発の不安や一時的なストレス反応とは異なり、持続性・反復性が強いのがポイントです。

主な症状

• 持続する漠然とした不安や心配（理由が明確でなくても消えない）

• 落ち着かない、過度の緊張感、そわそわする感覚

• 集中力低下、物事を考えすぎて決められない

• 頻繁な不眠や寝つきの悪さ、早朝覚醒などの睡眠障害

• 自律神経由来の身体症状：動悸・息苦しさ・発汗・震え・胃腸不調（腹痛・下痢・便秘）・めまいなど

• 慢性的な疲労感、筋緊張（首肩のこり）、頭重感

• 不安が増すと回避行動（外出を控える、対人場面を避ける）につながることもある

症状は人によって様々で、心理的な側面（過度な心配）と身体症状（自律神経症状）が同時に現れることが多いです。

西洋医学的視点

西洋医学では不安神経症の発症に多面的な要因が関与すると考えられています。主な要素を整理します。

• 神経伝達物質のアンバランス：セロトニン、ノルアドレナリン、GABAなどの神経伝達系が関与し、感情の安定や不安抑制に影響を与えます。

• ストレス応答系の変調：慢性的なストレスで視床下部—下垂体—副腎（HPA）軸が過度に反応しやすくなると、コルチゾール等のホルモン動態が変わり不安や不眠を助長します。

• 学習・認知の偏り：危険を過大評価する認知傾向（思考の歪み）や、不安を繰り返し強化する回避行動の獲得が慢性化に寄与します。

• 遺伝的素因と環境因子の相互作用：家族歴・幼少期のトラウマ・継続的な生活ストレス等が脆弱性を高めます。

• 身体的要因の関与：甲状腺機能の変動や慢性疾患、薬剤の影響などが不安症状を増悪させることがあります。

これらが組み合わさって、脳の不安反応（警戒系）が過敏になり、自己持続的な不安ループが形成されます。

自律神経との関係 — 体が「常に緊張」してしまう理由

不安と自律神経は表裏一体です。自律神経（交感・副交感）のバランスが崩れることで、心理面だけでなく身体面の不安症状が持続・増幅します。

• 交感神経優位（過覚醒）：慢性的な不安は交感神経を過度に活性化させ、動悸・発汗・筋緊張・過呼吸などの身体症状を引き起こします。交感過活動は不安を強めるフィードバックループを作ります。

• 副交感神経（回復系）の低下：副交感神経が適切に働かないと夜間の回復が進まず、慢性疲労や睡眠障害を招き、不安が持続しやすくなります。

• 感覚過敏と閾値低下：自律神経の不安定は身体感覚への注意を高め、普段は気にならない心拍や呼吸の変化に過剰反応してしまうため、不安が増幅します。

• 腸—脳相互作用：迷走神経を介した腸と脳のつながりにより、腸機能の不調（腹痛・下痢等）が不安を悪化させることがあります。逆に不安は腸の働きを乱します。

このように自律神経の“切り替え”がスムーズにいかないこと自体が不安のコアメカニズムの一つです。

東洋医学的観点

東洋医学では不安や心の乱れは「心（しん）・肝・脾・腎」など臓腑の不調や気血の不足・停滞として捉えます。代表的な弁証パターンと臨床像は次の通りです。

• 心脾両虚（しんぴりょうきょ）
  
  臨床像：疲れやすく不安感が強い、忘れっぽく眠りが浅い、食欲不振や倦怠感を伴うことが多い。
  
  着眼点：心と脾（精神の安定と消化）を補い、気血を養うことで不安を鎮める配穴を検討します。

• 肝気鬱結（かんきうっけつ）→化火
  
  臨床像：イライラ・怒りっぽい・胸や腹の張り感・のぼせや不眠を伴う場合に多い。ストレス蓄積が背景。
  
  着眼点：肝の気の巡りを促し、気の滞りを取り去ることで情緒安定を図る。

• 心腎不交（しんじんふこう）
  
  臨床像：強い動悸・不安・のぼせ・耳鳴り・入眠困難が混在するタイプ。心（精神）と腎（根気・安定）の協調を回復することがテーマ。

• 痰湿内阻（たんしつないそ）
  
  臨床像：思考がまとまらない、モヤモヤ感、身体が重い・眠気を伴う場合。痰湿が心神を濁す考え方。

東洋医学（鍼灸）はこれらの弁証に基づき、局所的な緊張を緩めると同時に臓腑のバランスを整えて自律神経の安定を目指します。代表的に用いられる経穴（例）：内関（PC6）、神門（HT7）、百会（GV20）、太衝（LR3）、足三里（ST36）などがあります（あくまで概念的な紹介です）。

まとめ

不安神経症は「心の問題」だけでなく、脳内の神経伝達系、HPA軸、自律神経の切り替え、身体感覚の感受性、そして生活環境や体質が複雑に絡み合う状態です。西洋医学は病態の科学的理解を提供し、東洋医学（鍼灸）は体質や自律神経のバランスを整えて心身の回復力を高める役割が期待できます。まずは全体像を理解したうえで、ご自身に合った専門家と一緒に「不安を扱う技術（ストレス対処）」と「体の回復力を高める習慣づくり」を進めることが改善の近道です。お悩みの方はお気軽にご相談ください。

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