逆流性食道炎｜自律神経の乱れが症状を増幅する理由と鍼灸の支援

こんにちは。鈴木開登です。

「胸が焼けるような感じがする」「のどに何か引っかかる」「食後に苦しくて横になれない」――こうした症状でお困りの方は少なくありません。逆流性食道炎は胃内容物（酸やペプシンなど）が食道へ逆流して粘膜に炎症を起こす病気ですが、単なる胃酸過多だけでなく、食道下部括約筋の機能不全・ホルモン・自律神経の乱れ・生活習慣・体型などが絡んで発症・増悪します。ここでは病態生理を中心に、西洋医学的解説と自律神経との関係、東洋医学（鍼灸）的な見立てを詳しくまとめます。

逆流性食道炎とは？

逆流性食道炎（GERD：Gastroesophageal Reflux Disease）は、胃の内容物が食道へ逆流することで食道粘膜に炎症やびらんを生じる状態を指します。胸やけや噴出感（酸っぱい液が口まで上がる）を典型症状としますが、のどの違和感や慢性咳嗽、声のかすれなど消化器以外（耳鼻咽喉領域）に症状を出すこともあるため注意が必要です。

主たる要因には以下が挙げられます。

• 下部食道括約筋（LES）の圧が低下すること、または一過性弛緩（TLESR）が増えること

• 横隔膜裂孔ヘルニア（hiatal hernia）による逆流促進

• 胃排出遅延（胃内容が留まりやすい）

• 肥満や妊娠など腹圧亢進因子
  
  これらが組み合わさり逆流が生じると、胃酸や消化酵素（ペプシン）により食道粘膜が障害されます。

症状

典型症状（よくある訴え）

• 胸やけ（胸骨裏の焼ける感覚）

• 酸っぱい液の逆流（げっぷとともに上がる）

• 食後のもたれ感、胸部不快感

非典型・耳鼻咽喉症状（見落とされやすい）

• のどの違和感やイガイガ感（喉が詰まる感じ）

• 慢性咳嗽、声のかすれ

• 咽頭痛や痰の増加、嚥下障害の軽度訴え

夜間症状

• 横になると逆流が増え、睡眠障害を招く（夜間胸やけ、咳で目が覚める）

合併しやすい問題

• 食道の慢性炎症が続くとバレット食道のリスクや狭窄による飲み込み障害が生じる場合もある（長期管理が重要）。

症状の悪化因子としては、脂肪分の多い食事、アルコール、カフェイン、チョコレート、喫煙、食直後の横臥、前かがみ姿勢、肥満などが知られています。

西洋医学的に見た病態生理（なぜ起きるのか）

逆流性食道炎が起きる仕組みは単純ではなく複数の因子が重なります。主要メカニズムを整理します。

1. 下部食道括約筋（LES）の機能低下・TLESR（一過性弛緩）
   
   正常ではLESが胃内容の逆流を防ぎますが、弛緩が頻発すると逆流が起きやすくなります。TLESR は特に胃がよく伸展（満腹）したときや脂肪摂取後に誘発されやすいです。

2. 横隔膜裂孔ヘルニア
   
   胃の一部が胸腔側へ滑り込むことで逆流防止の機構が弱くなります。

3. 胃排出遅延（gastroparesis）
   
   胃内容の滞留があると腹圧や胃内圧が高まり逆流しやすくなる。

4. 酸・ペプシンによる粘膜障害
   
   逆流した酸と酵素が食道粘膜を刺激し炎症を起こす。慢性炎症は潰瘍・狭窄・上皮の変化（バレット食道）へ進行することがある。

5. 感受性の違い
   
   同じ程度の逆流でも症状を強く感じる人（感受性過敏）と感じない人がいる。感覚過敏は粘膜の炎症や中枢性感作が関与します。

6. 生活習慣・全身因子
   
   肥満、喫煙、アルコール、妊娠などは物理的・機能的に逆流を助長します。

これら複合因子が症状の発現と慢性化に関わります。

自律神経との関係 — なぜストレスや睡眠で悪化するのか

逆流性食道炎と自律神経（交感／副交感）の関係は臨床的に重要です。ポイントを整理します。

• 迷走神経（副交感）と胃・食道運動
  
  迷走神経は胃の蠕動やLESの緊張を調節します。自律神経バランスが乱れると蠕動や括約筋の制御が不安定になり、逆流が起きやすくなります。

• ストレス→交感優位→胃の働きの乱れ
  
  精神的ストレスや緊張は交感神経を高め、消化機能を抑制します。これにより胃の排出が遅れたり、食道知覚が過敏になり胸やけ感が増すことがあります。

• 睡眠と夜間逆流
  
  睡眠中は立位に比べて逆流が起きやすく、さらに自律神経の切り替えが不十分だと胃酸の処理が遅れて夜間症状や睡眠障害を招きます。深い睡眠の減少は修復力を下げ、炎症の回復を妨げます。

• 相互増幅の悪循環
  
  逆流による不快感→ストレス・睡眠不足→自律神経失調→胃腸機能悪化→逆流増加、というループに入りやすい点が臨床上の要注意点です。

このため、逆流性食道炎の管理では自律神経の安定（ストレスケア・睡眠の改善・規則正しい生活）が症状軽減に寄与します。

東洋医学的観点（弁証と鍼灸的アプローチ）

東洋医学では逆流性食道炎を「胃気上逆」「胃陰不足」「肝気犯胃（肝気犯胃）」などの病理概念で捉えます。代表的な弁証と臨床像は以下の通りです。

• 胃気上逆型：胸やけ・嘔気・食べると上がる感じ。胃の抗重力機能が低下しているとみる。理気降逆（気の流れを下へ導く）が主眼。

• 肝気鬱結型（肝気犯胃）：ストレスで肝の気が滞り胃の働きを阻害。胸のつかえ感やげっぷ、情緒不安定を伴うことが多い。疏肝理気を重視。

• 胃陰不足型：長期の胃粘膜ダメージで潤いが不足し、乾いた苦味感や口の渇き、夜間の不快感が目立つ。滋陰養胃（陰を補う）を行う。

• 脾胃虚弱型：消化吸収力が弱く、食後の不快感や全身倦怠が強いケース。補脾益気で消化吸収を助ける。

まとめ

逆流性食道炎は単なる「胃酸が多い病気」ではなく、括約筋や胃運動の機能不全、腹圧、生活習慣、そして自律神経の状態が相互に影響して発症・増悪する複合疾患です。西洋医学的な病態把握は診断や必要時の薬物治療に不可欠ですが、自律神経の安定や生活習慣の改善、東洋医学（鍼灸）の視点での気の流れ・消化機能の調整を併用することで慢性化を抑え、QOLの改善につながります。胸やけ・のどの違和感・慢性咳嗽が続く方は、一度専門家にご相談ください。

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