仕事でつらい手のしびれ(手根管症候群)と自律神経、鍼灸の役割
こんにちは。鈴木開登です。
「朝起きると手がしびれている」「ペットボトルのふたを開けにくい」「指先の感覚が鈍く仕事に支障が出る」――こうした訴えで来院される方は多く、手根管症候群(手首での正中神経圧迫)は日常の作業性や睡眠に大きな影響を及ぼします。本記事では症状の特徴、主な原因と病態生理、自律神経との関連、東洋医学(鍼灸)からの見立てを丁寧に解説します。
手根管症候群とは?
手根管症候群は、手首にある「手根管」という狭い通り道で正中(せいちゅう)神経が圧迫されることで生じる症状群です。正中神経は親指〜薬指の母指側の感覚と母指を動かす筋の一部を支配するため、圧迫が続くとしびれ・ピリピリ感・脱力・つかみにくさが出現します。軽度では夜間や朝に症状が強く、重度では母指球筋の萎縮や巧緻運動の低下が生じることがあります。

症状
親指〜示指・中指(時に薬指母側)のしびれ・チクチク感(夜間〜朝に増強することが多い)
手を振ると楽になる、または手を振った後にしびれが減る(典型的な自覚)
物を握る力の低下、ペンやボタン操作が不安定になる
手首の痛みや指の冷感、違和感を伴うことがある
重症化すると母指球の筋委縮(母指の付け根が痩せる)や感覚消失により日常動作が困難になる
症状の時間帯(夜間悪化)や作業内容(手首の反復・長時間の手作業)を詳しく聞くことが診察上の重要ポイントです。
西洋医学的視点
手根管内での正中神経圧迫が主因ですが、背景には様々な内因・外因が関与します。
解剖学・機械的要因:手根管自体の狭さ、手首の変形や外傷後の瘢痕、腫瘤などによる物理的圧迫。手首の屈曲・伸展で圧が増す。
反復動作・姿勢負荷:長時間のキーボード操作、手作業、工具使用などで腱鞘の摩耗や腫脹が生じ、手根管内圧が上がる。
全身的要因:糖尿病・甲状腺機能低下症・関節リウマチ・妊娠・更年期・肥満などは組織の浮腫や神経の感受性を高める。
組織学的変化:腱鞘の肥厚、滑走不良、結合組織の変性により神経の血流が障害され、神経軸索の機能が低下する。長期化で脱髄や軸索変性が起こると回復が遅れる。
ポイントは「局所の圧迫」と「神経の代謝的脆弱性(糖尿病など)」が合わさることで症状が出やすくなる点です。
自律神経との関係
手根管症候群は局所的な神経圧迫疾患ですが、自律神経(交感/副交感)との関連も臨床的に無視できません。
血流調節の影響:正中神経周囲の末梢血流は自律神経に影響を受けます。交感神経優位で血管収縮が続くと神経の栄養血流が低下し、圧迫によるダメージが増幅される可能性があります。
浮腫と自律神経:自律神経の乱れ(夜間の交感亢進や循環リズムの乱れ)は末梢の水分分布に影響し、手首周囲の浮腫を悪化させて手根管内圧を上げることがあります(妊娠・更年期に増悪しやすい背景と合致)。
痛み・不快感と交感反応:慢性的なしびれや疼痛は交感神経を刺激し、不眠や不安を招くことでさらに神経の回復を妨げる悪循環が生じます。
糖代謝や神経基盤:糖尿病などで自律神経障害(自律神経ニューロパチー)があると、神経の修復力・血流調節が低下し、手根管症候群の発症・悪化に寄与します。
したがって手根管症候群の管理には局所だけでなく自律神経の安定化(睡眠・ストレス管理・全身状態の改善)も重要です。
東洋医学的観点
東洋医学では、手指のしびれや動作障害を「気血の滞り」「痰湿」「瘀血」「気血不足」などで把握し、局所と全身を同時に整える考え方をとります。主な弁証タイプと臨床像、着眼点は以下の通りです。
瘀血阻絡(おけつそらく)タイプ
臨床像:局所が刺すように痛む、動きの制限が強く慢性化している。
着眼:活血化瘀(血の停滞を流す)を重視。
痰湿阻滞(たんしつそたい)タイプ
臨床像:むくみや重だるさを伴い、朝・夕で変動が大きい。妊娠期や肥満傾向の方に多い。
着眼:痰湿を除き水分代謝を整える。
気血両虚(きけつりょうきょ)タイプ
臨床像:慢性的で疲れやすく回復力が乏しい、しびれが広範囲に及ぶ。糖尿病や長期疲労と合併しやすい。
着眼:補気養血で基礎体力を整える。
肝肋(肝陽上亢)タイプ(ストレス関連)
臨床像:張り感や痺れがストレスで増悪しやすい。
着眼:疏肝理気で気の巡りを良くする。
まとめ
手根管症候群は「手首での正中神経圧迫」による典型的なしびれ・脱力症状を示しますが、局所の機械的要因と全身状態(糖代謝・ホルモン・浮腫・自律神経)の相互作用で発症・増悪・慢性化します。西洋医学的な病態理解を基盤にしつつ、東洋医学(鍼灸)的な弁証に基づく全身調整は、血流改善・浮腫軽減・自律神経安定を通じて症状改善の補助となり得ます。手指のしびれや脱力が続く場合は専門医の評価を受けたうえで、生活習慣や自律神経も含めた総合的な対策を検討してください。
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